第三章 遠吠えは闇に木霊する
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毎年6月を迎える頃には「今年は例年に比べて乾季の入りが遅かった」と、抜けるような青空を見上げながら人々は口を揃えるのだが、今年の雨は一向にやむ事を知らない。地球規模で進む温暖化やフェーン現象の影響で乾季の入りが不規則になったと叫ばれるようになって久しいが、その実、5月を終える頃には必ずと言って良いほど清々しい晴天が湿度の低い軽やかな風を伴ってやってくるのが常である。それなのに今年は7月に入って幾日も過ぎようというのに、普段であれば乾いて地面がむき出しの田圃にはうっすらと水が張り、そこからは盛大な蛙の合唱すら聞こえてくる。気象庁によれば、ここしばらくは大雨や暴風雨、霰や雹への警戒が必要だそうで、しかも乾季を迎えていない今の内から雨季の前倒しさえ告げられている。あらゆるものが色濃く、鮮やかに、くっきりとして目に映る乾季の空気を待ち侘びながら、今日もまた暗雲の下、いつもより早く点いた街灯は、強い横風に揺れるバナナの木より少しだけ振り幅狭く右左し、大粒の雨は乾く間も与えず再び大地を濡らしている。
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