第三章 遠吠えは闇に木霊する
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帰国してから半年以上の月日が流れた。手にした小銭で手すりを打ち鳴らして降車の意図をバスの運転手に伝えたり、時間通りに運行しない列車に腹を立てたりすることはもうなくなった。たまの外食と残りのほとんどを自炊という日常に単調さを覚える一方で、毎日のように屋台で食べていたナマズの白身とサンバルには懐かしさばかりかヨダレまで溢れる。ランドセルに埋もれて家の前を歩く子供たちの礼儀正しさにはいちいち感心し、インドネシアの小僧どもの甘やかされっぷりは思い出すだけでも腹が立つ。時間や約束を守らぬ人には厳しく、お金はなくとも豊かな暮らしを送る人には頭が下がる。バイクの方向指示器代わりにヒラヒラさせていた手がカッチ・カッチと音を立てる車のウィンカーに代わり、夜空を仰げば一年中輝いていたオリオン座が四季を彩る別の星座に変わってしまっても、取り巻く自然の豊かさや人々の優しさにそう変わりはない。雲が崩れ、雷鳴が轟き、豪雨となる。そして幾ばくもなくまた空が晴れる。強い風だけを置き去りにして。ゲリラ豪雨に東南アジアのスコールを重ね、流れいく雲の行き場を思う。嗚呼…、9年という月日は決して短くなかった。
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