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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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COEDO Kyara

 埼玉県の川越で生まれたビール。COEDOは小江戸で、アルコール度数は5.5%。栓を抜くと甘いアロマホップの香りが広がる。澄み切ったブロンズ色は目に鮮やかで、炭酸は適度だが、泡の肌理はやや粗い。飲み口は甘く、徐々に心地よい苦味が口の中に広がり、やがて舌先だけにその痕跡を残していく。冷やしすぎるとその奥行きが見えないが、ゆっくりと味わうことで、時間の経過と共にその広がりを感じられる。誰かとじっくり語る傍らにありたいビールだ。どれほど景気が上向いているか知らないが、普段は発泡酒を強いられる庶民の懐には300円近い値段はやっぱり厳しい。
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 帰国してから半年以上の月日が流れた。手にした小銭で手すりを打ち鳴らして降車の意図をバスの運転手に伝えたり、時間通りに運行しない列車に腹を立てたりすることはもうなくなった。たまの外食と残りのほとんどを自炊という日常に単調さを覚える一方で、毎日のように屋台で食べていたナマズの白身とサンバルには懐かしさばかりかヨダレまで溢れる。ランドセルに埋もれて家の前を歩く子供たちの礼儀正しさにはいちいち感心し、インドネシアの小僧どもの甘やかされっぷりは思い出すだけでも腹が立つ。時間や約束を守らぬ人には厳しく、お金はなくとも豊かな暮らしを送る人には頭が下がる。バイクの方向指示器代わりにヒラヒラさせていた手がカッチ・カッチと音を立てる車のウィンカーに代わり、夜空を仰げば一年中輝いていたオリオン座が四季を彩る別の星座に変わってしまっても、取り巻く自然の豊かさや人々の優しさにそう変わりはない。雲が崩れ、雷鳴が轟き、豪雨となる。そして幾ばくもなくまた空が晴れる。強い風だけを置き去りにして。ゲリラ豪雨に東南アジアのスコールを重ね、流れいく雲の行き場を思う。嗚呼…、9年という月日は決して短くなかった。
 「今日は金環日食らしいよ」「ふぅ~ん」と言った程度で始まった朝。観察用グラスを手にして今か今かと待ちわびる各地の子供の様子を映しだすテレビの中継にもどこか上の空。それにしても既に日が昇っているというのに嫌に暗い。いや、暗くはないが「あかるくらい」といった妙な感じ。晴れるか曇るかはっきりせい。洗濯機を回すかどうかを決めかねる。朝食支度を終えた食卓には新緑の紅葉の合間を抜け落ちる木漏れ日がユラユラと半月形。半月系?「あれ、これって金環日食のせい」「おっ、おおぉ~!!」それから沸き立つことしばらく。その盛り上がりは他の人とまったく同じ。意外と侮れぬ天体ショーとミーハー精神に驚く。
Stark Dark Wheat Beer

 バリ島シンガラジャ産のビール。アルコール度数は5%ほど。グラスに注いだときの香りが高く、濁った褐色は深い焙煎を思わせる。口に広がる軽い酸味と、すっきりした後味は悪くない。けれども正直どこか物足りない。サークルKで売値2万6千ルピアのスターク・ビールだが、以前に紹介したものなら値段の割にお得だと思えるのに、これだと割高に感じる。好みの問題だけでもなさそうだ。
 通り掛ったイスラム寺院の前には人だかりが出来ている。少し遠巻きに眺める人々の視線の先には一匹の山羊。寄り添うようにして立つ男は、もがく山羊を押さえつけると、地面に穿たれた穴の上にその首を差し出す。刃物が首筋に突きたてられる。その一部始終を恐々と、けれども熱っぽく見詰める男の子がいる。奇妙な方向に首を傾げた山羊が力なく引きずられていく。地面には絵の具をこぼしたような鮮やかな赤が残る。しかしそれも次第に黒ずんでいく。寺院の前には頭のない山羊が既に数匹吊るされている。まだ精気を失っていない、どこかねっとりとした生温かい臭いが辺りに漂っている。それは屠られた動物が最後に放つ、生きていたことの証だ。

 預言者イブラヒムは息子イスマイルを唯一神アッラーに生贄として捧げることを決意する。イスマイルもそれが神託であることを知ると、進んで自らの運命を受け入れる。自分の息子を手に掛けようとしたまさにその時、イブラヒムは新たな神託を得る。「お前の息子の代わりにその山羊を殺すように」との。二人の揺るぎない信仰を前に、神がイスマイルの代わりとなる山羊を与えてくれたのだ。イドゥル・アドハとはこの話に由来するイスラムの犠牲祭で、毎年イスラム暦の12月10日に催される。
 ある日を堺にそれはポツリと現れた。背丈は2尺ほど。ずんぐりとした胴体にうずくまるようにして大きな頭が乗っかっている。手足は短く、丸々としていて、驚くほどに肉付きがよい。血行も良い。顔は白くてまん丸。目も丸くておまけに鼻まで丸いが、口も耳もあるのだから、のっぺらぼうよりはとっつきやすい。やけに短く切りそろえられた前髪に比べると頭のてっぺんの毛が極端に長く、それがトサカのように逆立っている。その毛も後頭部に向かう頃には大きな渦を描きながら静かに寝そべっていく。
 耳にかかる毛をグリグリと弄んでは、思い出したように辺りを転がる。おもむろに手を振り上げて虚空を掴んでは、その感触を確かめるように同じ動作を繰り返す。目が合うと不思議そうな顔をして一瞬動きを止めるが、すぐに顔を歪めてそっぽを向く。ゴロゴロする。何にイラついているのか、忙しなくあたりを見回しては、時々吠えるような奇声をあげる。「ウーババ」、「ウーババ」と。
 ウーババは噛みつくわけでもなければ、別段悪さをするわけでもない。たまに腰掛けたり、たまに寝転んだり、たまにひっくり返ったりしている。人の時間の流れとは大よそ無関係に日がな一日そうしている。あたりを見渡しながらひどく聡明な顔をしたり、とても気難しい面持ちになったり、あるいはどうしようもなく間の抜けた表情をしたりしている。その姿は物思いに耽っているようにも思えるし、呆けているようでもあるし、世界と自分の距離を測りかねているようにも見える。けれども真意のほどは分からない。もしかしたらただ眠いだけなのかもしれない。はっきりしたことは何も分からない。
 ジャカルタ周辺やバンドゥンにあるBlitzmegaplex系の映画館でシャールク・カーン主演の「Ra. One」の公開が始まった。シャールク・カーンと言えば、数ヶ月前にスラウェシ島のゴロンタロの警察機動隊員がシャールク主演の「Dil Se」の有名な一場面を真似たことで、間接的にではあるが脚光を浴びたばかりである。その記憶も新しい内に公開されたこの映画は、インドネシアに入ってくるインド映画としては珍しく、封切前にテレビでコマーシャルが流されたり、インフォテイメント系の番組で盛んに取り上げられたりするなど、プロモーション活動に余念がなかった。同じシャールクが主演する2010年公開の「My Name is Khan」では、この映画がインドネシア各地にあるCinema 21系の映画館で上映されたにも関わらず、それほど大きな宣伝が行われなかった事と比べると随分な違いである。インド映画好きとしては豪華なキャスティングやCGを駆使したトレイラーに興味をそそられないと言えば嘘になるが、ヒンディー映画初の本格的SFヒーローものであることや、またこれまでのインド映画に比べて破格の制作費であるらしいことに何やら引っ掛かるものがある。そんなこともあって素直に映画館へ足を運ぶ気になれずにいる訳だが、たとえ出掛けて行ったとしても、そもそもジョグジャの映画館では上映すらされていないのだから話にならない。普段は悪の巣窟ぐらいに思っている首都ジャカルタ暮らしが羨ましく思えるのはこんな時だ。
 さて、日本では「ムトゥ踊るマハラジャ」の印象があまりに強かった為か、インド映画に対しては多分に偏った先入観が出来上がっているように思える。あたり前の話だが、一口にインド映画と言っても多種多様で、いきなり訳も分からずに踊りだすわけではもちろんない。一年間の制作総数においてハリウッド映画を上回り、ハリウッド映画に比べれば実に小さな制作費で、質的には勝るとも劣らない名作を作り続けている。日本で大々的に公開されてこなかったのがむしろ不思議なほどである。少し前からリンクを張らせて貰っている「ポポッポーのお気楽インド映画」はそんなインド映画の魅力を紹介する貴重なサイトだ。興味のある方はぜひ一度覗いて頂きたい。ただそこで興味を持った映画があったとしても、インドネシアならいざ知らず、日本でどのようにしてそれらの映画を手に入れたら良いのかは頭を抱えてしまうところである。
Stark Wheat Beer

 バリ島シンガラジャ産の小麦のビール。アルコール度数は5%ほど。ちょっと発砲が強く、泡の肌理も粗い感じがするけれど、味も香りもヒューガルデンに似た、とても爽やかで美味しいビール。ラベルのデザインもいい。高嶺の花だったヒューガルデンのスタイニーボトルの半分以下の値段で買えることを考えるとコストパフォーマンスも高い。気に入った。
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