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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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 日本における六輝(ろっき)※1のように、ジャワでも物事の日取りを決める際に参照されてきた伝統的な暦がある。例えば冠婚葬祭に始まり、作付けや井戸掘り、家の新築や屋根の葺き替え、外出や引越し、あるいはもっと些細な竹を切ると言った日常的な行為に至るまで、その暦に則って吉日が選ばれる。このジャワの暦は月の満ち欠けを基にする太陰暦で、日本で明治以降に採用された太陽暦のグレゴリウス暦や、あるいはもっと以前からある太陰暦と太陽暦を折衷したいわゆる旧暦※2とは異なる。また同じ太陰暦とは言っても、イスラム教徒が人口の9割近くを占めるインドネシアで広く利用されているイスラム暦とでは閏日の入り方に若干の違いがある※3。一年が354日の太陰暦は、一年を365日と定める太陽暦と比べると期間が短いため、例えばジャワ暦の正月は一定ではなく、太陽暦のカレンダーから見れば毎年約11日間ずつ前倒しになっていく。
 ジャワ暦は7種のハリ(曜日)、12種のブーラン(月)、8種のタウン(年)、そのタウンが一巡する8年を一括りにしたウィンドゥと呼ばれる時間の単位から構成される。ウィンドゥには4種あり、それぞれがランキルとクラウの二つの属性を持つので述べ8種類となる※4。「十年一昔」という言葉が表すように、日本では大きな時間の流れを10年という単位で見る向きがあるが、ウィンドゥが示すようにジャワでは8年を一区切りと考える。1週が7つの曜日から成り、1年が12ヶ月で構成されるのは太陽暦と変わらないが、タウンやウィンドゥという概念は、十干に陰と陽の属性を与えて干支と組合せた中国暦の十干十二支にも似ていなくはない。このハリ、ブーラン、タウン、ウィンドゥのそれぞれには物事を行う際の善し悪しや向き不向きなどの細かい規定がされている。これらの組合せに加えて、一年の始まりがどの曜日になるかでその年全体の運気が変わり、またディノ・パサール(市の立つ日)※5と呼ばれる5曜と一般的な7曜の組合せによっても吉凶は変化する。無数とも思える組み合わせから体系的かつ法則的に導き出されたこの暦をもとに、ジャワでは物事をする上で相応しい日取りが選ばれてきた。
 以前は折に触れて目にした暦注の細かく入ったそのようなジャワの暦だが、近年は見掛ける機会が少なくなり、ただ月の数字と日付、曜日の名前だけが記載された味気ないカレンダーが大衆食堂や役場、一般家庭の客間の壁を飾るようになった。それに伴ってジャワ暦を参照してから何かしらの行動を起こすという習慣そのものも徐々に廃れている。ただその一方で、ジャワ暦という総体から見ればほんの一側面に過ぎないが、先に挙げた7種のハリと5種のディノ・パサールの組合せのように、今もなお社会で息づいているものもある。自分の誕生日にあたる7曜と5曜の組合せはウェトンと呼ばれるが、例えば35日周期で訪れるこの日に自らの家や上演道具一式を開放して、若手にワヤン・クリッを演じる場を提供するダランがいたり、また財団の設立日にあたる7曜と5曜の組合せの日に、一般に向けて舞踊やガムラン演奏など、各種の伝統芸能の上演を行ったりしているところもある。限定的ではあるが、そのようなところではジャワ暦は今も重要な意味を持ち続けている。
 ジャワでもバリでも民族固有の暦を持つ文化では、暦を読める人間の減少が叫ばれて久しい。それでもバリのように一般のカレンダーに今もはっきりと独自の暦注が記載されていればまだ良いが、ジャワのようにカレンダーからもその情報が失われてしまっては、いよいよその存在が危ぶまれる。地域や社会、気候や風土に根ざした総合的な知識体系として発達してきたそのような暦は、根拠のない占いの類とは一線を画するものである。先人の知恵の詰まった暦を生活の中で生かしていく方法を、今のうちに模索しなければならないだろう。

※1 日の吉凶を占う上で暦に記載される事項の一つ。先勝、友引、先負、仏滅、大安、赤口の6種から成り、今日でも広く利用されている。
※2 中国暦と同じく太陰太陽暦。太陰暦を土台にしながら、19年に7度の閏月が設けられることで、太陽暦との時間的な開きを調節している。
※3 ジャワ暦では8年に3日、イスラム暦では30年に11日の閏日が置かれる。相互の暦を同調させる為、120年に1日の調整が行われる。
※4&5 ジャワ暦における暦の単位。

-Dina Pasar (ディノ・パサール)-
 Legi, Paing, Pon, Wage, Kliwon

-Hari (ハリ)-
 Ahad (日曜日), Senin (月曜日), Selasa (火曜日), Rabu (水曜日)
 Kamis (木曜日), Jumat (金曜日), Sabtu (土曜日).

-Bulan (ブーラン)-
 Suro (1月), Sapar (2月), Mulud (3月), Bakdamulud (4月)
 Jumadilawal (5月), Jumadilakhir (6月), Rejeb (7月), Ruwah (8月)
 Poso (9月), Syawal (10月), Dulkaidah (11月), Besar (12月).

-Tahun (タウン)-
 Alip, Ehe, Jimawal, Je, Dal, Be, Wawu, Jimakir

-Windu (ウィンドゥ)-
 Adi - Lambang Langkir, Adi - Lambang Kulawu
 Kuntara - Lambang Langkir, Kuntara - Lambang Kulawu
 Sengara - Lambang Langkir, Sengara - Lambang Kulawu
 Sancaya - Lambang Langkir, Sancaya - Lambang Kulawu
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 KOMPAS ※1の伝えるところによれば、来る4月9日に投票日を迎える今回のPEMILU ※2で、DPR ※3の立候補者はその選挙活動のために平均で1M ※4の資金を必要とすることが判明した。この内訳は街頭の巨大看板の設置費、新聞への広告掲載料、ポスターの印刷代、支持者に配られるTシャツの制作費、選挙区で行われる様々な社会活動に要する資金、支援団体の調整役に支払われる人件費などであると言う。インドネシアの所得や物価から考えれば破格と言えるこの先行投資を回収しようと、議員になった候補者たちが躍起になって向こう5年を駆けずり回るのは火を見るよりも明らかである。あるいは議員になった暁にはその投資を十分に上回る利益が約束されているからこそリスクを抱えても立候補するのかも知れないが、いずれにせよ近年の癒着や汚職を撤廃しようとするインドネシア社会の取り組みに対してこのような多額の資金を要する選挙システムそのものが矛盾している。わずか一握りの金持ちによるお祭り騒ぎにならないように、また次の政治腐敗の根を断ち切る為にもこのような選挙活動の在り方そのものを見直さなければならない。

※1 インドネシアの知識人向けの全国紙で世論への影響力が大きい。
※2 PEMILUはPemilihian Umumの略で総選挙のこと。
※3 DPRはDewan Perwakilan Daerahの略で国民議会、国会のことを指す。
※4 1Mとは1 Miliar、つまり1,000,000,000ルピアのことで、現在の為替レートで日本円に換算するとおよそ8,500,000円。
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