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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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 その男はただ黙ってこちらを見詰めていた。長過ぎもせず短過ぎもしない頭髪と、あごから口元にかけて蓄えられた髭がその男の年齢をいかようにも見せることができたが、浅黒く焼けた肌は幾分痛んでいて艶を失い、そこからは次第に断片化していく若さのかけらのようなものを感じさせた。中肉中背の中年という以外にこれといった特徴を持たないその男は何かを語りかけるわけでも訴えるわけでもなくそこに佇み、瞳の奥には鈍い光を湛えながら変わらずにこちらを見ている。時折その視線に耐えかねてそらす目線も、もとより行くあてなどなく、結局は再びその男へと向けられていく。どれほどの時間が費やされようともその男からは決して逃れることができないという事実と、それでもその男のことを完全には受け入れることができないという想いが、わだかまりとなって自分の中に暗くて重い部分を作りだす。姿見に映ったその男の姿に時の流れを感じると共に、そこにいたであろうはずの別の男の姿を思い浮かべてみるが、今はもうそれもできない。
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