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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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 ここ数年の偽札の増加にインドネシア国銀が頭を悩ませている。5年前には100万枚に7枚の割合で混入していた偽札が一昨年には8枚、今年の調査では9枚に達していたことが判明した。100万枚に9枚。これだけを見れば取るに足りない数のようにも思えるが、生活の中で遭遇する偽札、あるいはそれと疑わしき紙幣の実数はこの値を遥かに上回っているとの印象を強く受ける。なぜなら例えば公共料金の支払窓口で、レストランでの勘定の際に、はたまた買い物を終えたレジで10万ルピアや5万ルピアのような高額紙幣を手渡した時、その紙幣があからさまに拒絶され、つき返されて他のものへの交換を促される経験を繰りかえす内に、数の上では僅かなはずの偽札が実は社会の中にかなり蔓延していて、それを掴まされぬように人々は多かれ少なかれ注意を払っていることに気が付くからである。
 もし不運にも偽札を手にしてしまったらチェック機能の甘い小さな商店や、不特定多数の人が訪れて客の回転も速いガソリン・スタンドのような場所で使ってしまおうというのが恐らく一般的な考え方である。紙幣を偽造しているならばいざ知らず、ただそれを使用した場合の罰則は無きに等しいこの社会では、偽札を偽札だと認めて流通をやめてしまった人にこそ損害が発生するので、普通は簡単にそれを認めたりはしない。それ故に偽札を受け取ってしまった人はそれと気取られぬように別の人にその偽札を引かせるように努め、そうして偽札を手にしてしまった次の人もまた同様な努力を繰り返して自分の手元からそれをなくそうと試みる。言うならば社会全体で参加する壮大なババ抜きのようなものである。この結果、偽札は社会の中で紙幣価値を維持しながら流通し、どんなに国銀が頭を抱えようとも、偽札は本物らしく社会をまかり通っていくのである。
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