第三章 遠吠えは闇に木霊する
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冷やかな空気があたりを覆っている。昨日うんざりするほどの雨を落とした雲は、その背を遠く西の空に残して棚引いている。北にあるムラピ山は雲の編笠を被っていて山の頂は見えない。中腹から麓にかけての地形の入り組んだ濃い緑の合間には、霧なのか靄なのか深く立ち込めるところがあって、その濃い白はいつか見た残雪を思わせる。人の居ぬ間を突いて収穫前の稲を啄ばみにやってきたスズメたちは、屋根の上でチェンチェンと騒がしくやっている。それとは違う柔らかで優雅な鳥の鳴き声が隣の中庭から聞こえてくる。二件先に住む童子が死に物狂いでグズル声は、そんな鳥の声の一つに似ていなくもない。鈴虫の音が一定のリズムを刻む。まだ冷たい水をバシャンバシャンと勢いよく浴びる音が高い塀を越えて響きわたる。井戸水を汲み上げるモーターが近くで唸っている。東の方で犬も唸っている。前の小道を足早にいく幾つかの小さな足音が聞こえる。立ち話に熱の入る人々の高らかな声は眠たい頭には疎ましい。田んぼの向こうの林の先、ここからは見えない南へと下る道路を激しく行き交う車やバイクは、地響きにも似た低い音を地表近くに置き去りにする。眩しい太陽の光が徐々に高いところから差し込む。もうじき朝も一段落つく。
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