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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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 私の知る限り、ジョグジャカルタで出会う人々はおおよそ計算が苦手である。日常的にお金を扱う各種の店員、一般庶民の別を問わず、とにかく数字には弱い。例えば少し前の話になるが、政府のエネルギー転換政策で、家庭用コンロの燃料を灯油からLPガスへと移行することが決まった時のことである。売値1万3千ルピアのLPガスのボンベを使えば日常的な調理ならば1週間は持つというのに、およそ二日分の調理しかまかなえない1リットルあたり7千ピアの灯油の方が安いと頑なに主張して、その移行を拒んだ人達が決して少なくない。目先に提示された数字の大小が全てで、先のことなどは頭にないのである。
 またこんな例もある。1万9千ルピアの商品の代金を2万ルピア紙幣で支払って、1千ルピアのお釣りを待っていた時のことである。折悪しく会計箱には2千ルピア紙幣しか入っておらず、店員はお釣りに困っている。幸いこちらの財布には1千ルピア紙幣があるので手渡すと、「お釣りを出さなければならないのは私だから」と受け取らない。まさかとは思いつつも、こちらの意図を伝えてから1千ルピア紙幣を置いて2千ルピア紙幣を取ろうとすると、狐につままれたような顔をしてキョトンとしている。仕方がないのでやり取りの逐一を紙に書いて説明するのだが、いよいよ呆然となって立ちすくんでしまう。そんな様子を見ているこちらも、どうしたら良いものかと頭を抱えてしまう。一度に処理しなければならない数字が複数発生すると混乱に陥ってしまうのだ。ちなみにこの数字に弱い人々が持つセキュリティ・ホールを突いて、言ってみれば脳みそのバグを引き起こし、催眠状態にしてから金品を騙し取るという手口が数年前からジャカルタ辺りで横行している。事態はジョグジャだけに留まらないようだから尚のこと深刻だ。マイクロソフトならぬインドネシア政府にはこの欠陥を埋める算数教育という名のパッチを早急に要求したい。
 話は逸れてしまったが、続きはまだある。1万6千ルピアの食事代に対して2万ルピア紙幣と1千ルピア紙幣で支払った時のことである。もちろんお釣りに5千ルピア紙幣を期待してのことだが、必ずと言っていいほど「これで十分」と渡した1千ルピア紙幣は返される。慢性的な釣銭不足で、なるべく小額紙幣を出したがらないインドネシアのレジ事情を考慮してのことだったが、これではかえって無用の長物である。数字を前にしたインドネシア人に機転を利かすなんてことを求める方がどうかしているのだ。
 一事が万事こんな調子だからお金のやり取りには常に面倒が伴う。いっそ端から計算はできぬものと、片時も離さず計算機を傍らに置いて、実質一桁の足し算や引き算をカチカチとやっている店員を見る方が清々しいくらいだ。もっともそれはそれで、何度も打ち間違えては頭から計算をやり直す姿を見ている内に、算数ぐらいはちゃんとやっておこうよとうんざりはするのだけれど。店員が持つ計算機が合計金額を打ち出すよりも早く暗算を終えて支払い金額を机に置く。まるで手品か何かでも見るように驚きをもってお金を受け取る店員に、二桁から一桁の引き算はまだまだ難しそうだ。
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