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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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 三毛猫だからミケとはあまりに安易な話だが、実際にそう呼んでみると一番しっくり来るのだから仕方がない。小さな頭から伸びる体は下の方で少しだけもっさりしていて、跳ね上がった毛が所々でそっぽを向いている。小柄でまだあどけないようにも見えるけれど、これでも既に二桁の子猫を生んだベテランである。胴から前足にかけての黒毛の広がりがバランス良く、結果として佇まいに優雅なところを残す猫に仕上がったのは、人間と付かず離れずの生活を送るミケにとっては幸いだったかも知れない。暗がりで目にした時の愛らしさはどこの猫でも同じだが、明るいところで見せる神妙な顔に潜む、どこか歯抜けてひょうきんな表情はミケだけの魅力となっている。
 我が家の周囲を飼い猫きどりで行き来するこの三毛猫は、おおよそいつも腹を空かせている。人に会えばメシの一つも出てくるだろうと固く信じている節があって、近隣で玄関の戸があく音を聞きつけては小走りにそちらへと向かっていく。幼少の頃の私も同じようなことをしていたと言うから、この辺りに猫も人もないのかも知れない。野良猫なのだからそこいらに幾らでもいるネズミでも掴まえて食べれば良さそうなものを、しばらく何もやらないとずんずん痩せる。それでも放っておくと、いよいよ身をやつして弱々しく鳴きながら、わざわざうちの前を徘徊して見せたりする。さすがに見兼ねて外で食べた魚の残りを持ち帰ってやると、それに気付いたミケは半狂乱で駆け寄ってくる。頭と尻尾、それに少々身の残った骨とはいえ、もとは1kg近くあった大きな淡水魚である。ミケの体からすれば随分なご馳走には違いない。ご近所さんが聞いたら猫泥棒か動物虐待かと疑われてしまいそうなほど闇雲に鳴き散らすミケを何とか御しながら、手土産に包んだ魚を袋から取り出す。
 ところが、である。このミケという奴はそれまでどんなに腹ペコでも、宛がわれた餌に焦ってがっつくような真似は決してしない。それが焼き魚でもエビフライでも照り焼きチキンでも、まるで決まり事か何かのように、目の前に出された餌をまずは不思議そうに眺めて見せる。幾度かこちらの顔と餌とをチラチラ眺めながら、それでも餌には手を出さずに待ち続けている。もしかしたらもっと良い何かが後から出てくるとでも思っているのかもしれない。これ以上は何も出ないことがようやく分かると、今度は恨めしそうに、しかも幾らか避難がましくこちらに一瞥を浴びせる。そうしてから、ようやく与えられたものに手を着け始める。「だってこれ、あなたの残飯でしょ?」と言わんばかりに渋々と。これでは餌をやる身としてはまったく合点のいかない話で、もう何も持ち帰ってやるものかと心に誓う。誓いはするのだが、一度食べ始めてしまえばそれまでの気高さも意味をなさず、フガフガと下品に歓喜の声をあげながら勢いよく食べるミケの姿を見ていると、何となくまぁいいかと思えてしまうのだから猫はずるい。いや我ながらミケには甘いと思う。
 しばらくして餌のあった場所を見ると、辺りには魚の鱗と砕けた骨が散乱している。その傍らでは半身になったミケが寛いで満足げに舌舐りをしている。こちらの目線に気が付いたミケは、少しばつが悪そうに背中を向けて視線をそらす。念入りに毛繕いをするミケの毛の白がさっきより冴えて見える。
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