第三章 遠吠えは闇に木霊する
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風が吹く。それまで滞っていた生暖かい空気がにわかに動きだすと、涼しげな風がどこからともなくやって来る。すっと気温が下がる。田んぼの畦に生えた椰子や道に沿って植えられたバナナが揺れながら、しゃらしゃらと葉を鳴らす。風で散ったアデニウムの葉は辺りの落ち葉と一緒になって、乾いた音を立てながら地面を転がる。枝に残された桜色の花はどこか寂しげに映る。低く垂れ込めた暗い雲は幾重にも連なり、水平に広がっては空を覆っていく。東から西へと流れる雲は時折、くぐもった雷鳴を轟かせながら先を急ぐ。その灰色を背に空高く舞う数羽の雁の白が見える。刈り取ったばかりの稲束を背負い、家路を急ぐ者がいる。濡れまいと猛然とバイクを駆る人の姿がある。遠くにある真黒い雲の塊が形を失いながら空と大地とを結び、雨の柱を作る。次第に激しい雨音が近づいてくる。ぽつりぽつりと流れ弾が飛んでくる。もうすぐここにも雨が来る。
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