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第三章 遠吠えは闇に木霊する
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 通り掛ったイスラム寺院の前には人だかりが出来ている。少し遠巻きに眺める人々の視線の先には一匹の山羊。寄り添うようにして立つ男は、もがく山羊を押さえつけると、地面に穿たれた穴の上にその首を差し出す。刃物が首筋に突きたてられる。その一部始終を恐々と、けれども熱っぽく見詰める男の子がいる。奇妙な方向に首を傾げた山羊が力なく引きずられていく。地面には絵の具をこぼしたような鮮やかな赤が残る。しかしそれも次第に黒ずんでいく。寺院の前には頭のない山羊が既に数匹吊るされている。まだ精気を失っていない、どこかねっとりとした生温かい臭いが辺りに漂っている。それは屠られた動物が最後に放つ、生きていたことの証だ。

 預言者イブラヒムは息子イスマイルを唯一神アッラーに生贄として捧げることを決意する。イスマイルもそれが神託であることを知ると、進んで自らの運命を受け入れる。自分の息子を手に掛けようとしたまさにその時、イブラヒムは新たな神託を得る。「お前の息子の代わりにその山羊を殺すように」との。二人の揺るぎない信仰を前に、神がイスマイルの代わりとなる山羊を与えてくれたのだ。イドゥル・アドハとはこの話に由来するイスラムの犠牲祭で、毎年イスラム暦の12月10日に催される。
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